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授業テロップの使い方
── 話したことを、画面の下に残す

2026年8月30日 / 実践アイデア
黒板の前で話す先生と、それを聞く子どもたちの水彩画

板書は残ります。でも、口で言ったことは消えていきます。 聞きのがした子は、どこへ戻ればいいのか分かりません。 話したことを画面の下に字幕で出して、1行ずつ残していく道具を作りました。 ブラウザで開くだけで、登録もインストールもいりません。

3行でいうと
  1. Chromeで開いて「はじめる」を押すと、話したことが画面の下に字幕で出ます
  2. 字幕は1行ずつ上に残るので、聞きのがしても子どもが自分で追いつけます
  3. 残った文はテキストで保存でき、生成AIに渡して要点や連絡を整理できます

授業テロップを開く → 無料・登録不要・Google Chrome で動きます。

どんな子のための道具か

まっすぐに言うと、耳から入る言葉が残りにくい子のためのものです。

聞こえていないわけではないのに、話が流れていってしまう。 大事な言葉だと分かっても、書き留める前に次の話が始まっている。 「もう一度言ってください」と言える子ばかりでもありません。

聴覚に障害のある子への情報保障としても使えます。 手話通訳やノートテイクを毎時間つけるのは、現実には難しい。その間を少しだけ埋めるためのものです。

先生の側が楽をするための道具ではありません。 先生はこれまでどおり話し、板書もします。その上で、それでも追いつけない子のために、もう一つ道を足すという位置づけです。

はじめかた

  1. Google Chrome で開きます。音声認識にChromeのしくみを使うので、ほかのブラウザでは動きません
  2. 「はじめる」を押して、マイクを許可します。最初の1回だけ、ブラウザが確認してきます
  3. この画面をモニターや電子黒板に映します。画面を複製して映せば、そのまま教室のテロップになります
授業テロップを開いた直後の画面。上に操作のボタンが並び、中央に説明、下に黒いテロップの帯がある
開いた直後の画面です。上のボタンは6つだけ。下の黒い帯に字幕が出ます。
認識中の画面。下の黒い帯に大きな白文字で今の発言が出て、その上に話した文が1行ずつ並んでいる
話しはじめると、下の帯に今の言葉が出ます。文が決まると、上に1行ずつたまっていきます。 少し上を見れば、さっきの話がそのまま読めます。
画面が暗くならないようにしてあります。 話しているあいだ、パソコンのスリープを止めています。授業の途中で画面が消える心配はありません。

見た目を教室に合わせる

うしろの席から読めるかどうかは、教室の広さとモニターの大きさで変わります。 文字の大きさは4段階、色は3つから選べるので、実際に教室で見て決めてください。

設定の画面。文字の大きさ4段階、テロップの行数、テロップの色3つ、画面の表示、ことばの置きかえ辞書の欄が並んでいる
設定はこれだけです。「黒地に黄」は、教室が明るくて白が飛ぶときに読みやすくなります。

スライドと一緒に使うとき

「テロップを前に出す」を押すと、テロップだけの小さな窓が出て、スライドなどほかの画面の上に重なります。 窓のふちをつかんで大きさを変えると、字の大きさも一緒に変わります。窓を閉じれば元の画面に戻ります。

まちがって聞き取られたら

音声認識は完璧ではありません。とくに単元の用語・地名・人名は外れやすく、 そこを外すと意味が変わってしまいます。直し方は2つあります。

1. その場でクリックして直す

残った文はクリックすると、その場で書き直せます。Enterで確定、空にすればその行が消えます。

ログの1行が青い枠で囲まれて編集できる状態。「大事な言葉はこの3つです 席 温度 変化」と誤って認識されている
「体積」が「席」になってしまった行を、クリックして直しているところ。 青い枠が出たら、そのまま打ち直せます。

2. あらかじめ辞書に登録しておく

設定の「ことばの置きかえ辞書」に たいせき→体積 のように1行ずつ書いておくと、 字幕とログに出る前に置きかわります。授業の前に、その時間の用語を2〜3語だけ入れておくのが現実的です。

この道具は、文を勝手に書き直しません。 話し言葉を機械が整った文に直そうとすると、直る数より新しく生まれる誤りのほうが多くなることがあります (人工知能学会論文誌 37巻3号ほか)。だから、直すのは人の役目にしています。

残した文をどう使うか

授業が終わったら「のこす」で、時刻つきのテキストとして保存できます。 そのまま読み返してもいいのですが、生成AIに渡すと整理してくれます。

「AIでまとめる」を押した直後の画面。下に「お願いの文とログをコピーしました」という知らせが出ている
「AIでまとめる」を押すと、ログとお願いの文が一緒にコピーされます。 あとは ChatGPT や Gemini に貼りつけるだけです。

返ってくるのは、だいたいこの3つです。

休んだ子への連絡や、自分のふりかえりに使えます。

字幕が読みやすくなる話し方

認識のよしあしは、道具よりも話し方で変わります。 大学の授業で音声認識を使った実践報告では、話し方を意識するだけで認識率が4割から8割まで上がったという記録があります (皆川ら 2016・コンピュータ&エデュケーション)。次の5つだけ気をつけてみてください。

  1. ゆっくりめに話す。1分間に300字くらいが目安です
  2. 一文を短くして、言い切ったら1秒あける。この「間」が、文の切れ目になります
  3. マイクは口の近くに。ピンマイクがあると安定します
  4. 単元の用語・地名・人名は、辞書に登録しておく。いちばん効きます
  5. 子どもの発言は、先生が復唱してテロップに乗せる。復唱は授業でも自然な動きです

向いているのは、先生がひとりで話す説明や指示の場面です。 グループ活動のようにまわりがにぎやかなときは、認識が大きく崩れます。そこは無理に使わないほうがいいと思います。

使う前に知っておいてほしいこと

まとめ
  1. Chromeで開いて「はじめる」だけ。画面をモニターに映せば、そのまま教室で使えます
  2. まちがいはクリックで直せます。用語は先に辞書へ入れておくと、そもそも外れにくくなります
  3. 残った文はAIに渡して、要点・用語・連絡に整理できます

授業テロップを開く →

参考にしたもの

もとになった道具

この道具は、音声認識字幕ちゃん(西村良太さん・さぁたんさん制作)を実際に使わせてもらい、 「教室で使う」ぶんだけ機能をしぼって新しく作ったものです。コードは流用していませんが、 設定の考え方(文の区切りを待つ時間・認識中の文字を流す・置きかえ辞書・伏字)は、この道具から学びました。 配信のために作られたものを、教室に置きかえたのがこの授業テロップです。

  1. 西村良太(さよなりω)「音声認識字幕ちゃん」/ 紹介と設計の考え方は チャット翻訳ちゃん・字幕ちゃん
  2. sayonari「jimakuChan(音声認識字幕ちゃん)」GitHub MITライセンス。実装が公開されています

話し言葉を機械が扱うことについて

認識された文を機械に書き直させない、と決めた根拠です。

  1. 西村良太・森雷太・太田健吾・北岡教英(2022)「音声対話システムのための自由発話に対応した照応解析による入力発話への話題補完手法」人工知能学会論文誌 37巻3号
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjsai/37/3/37_37-3_IDS-F/
  2. Jotaro Emoto, Ryota Nishimura, Kengo Ohta, Norihide Kitaoka (2025) "Real-time VAD-less speech recognition by fine-tuning SSL model with data containing tagged non-speech segments"/ APSIPA ASC 2025, pp.980-985
    http://www.apsipa.org/proceedings/2025/papers/APSIPA2025_P390.pdf
  3. 西村良太(2019-2023)「スムーズな対話のための対話テンポのリアルタイム制御に基づく音声対話システム」科学研究費 19K04311・研究成果報告
    https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-19K04311/

字幕の読みやすさ

1行の長さ・行数・字の出し方を決めるときに見たものです。

  1. 小畑修一・西川俊・高橋秀知(1985)「聴覚障害者のための字幕挿入に関する研究:台詞に忠実な字幕挿入の可能性と効果」特殊教育学研究 23巻2号。1画面16字×2行・1秒あたり4.8字が目安
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/tokkyou/23/2/23_KJ00004950842/
  2. 浦谷則好(2001)「聴覚障害者のための字幕放送の充実をめざした研究開発」月刊ノーマライゼーション 通巻241号。提示は1分間に300字が目安
    https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n241/n241_04-01.html
  3. 黒木速人ほか(2011)「聴覚障害者のためのリアルタイム字幕システムにおける話者顔映像と誤認識字幕の呈示タイミングに関する研究」映像情報メディア学会誌 65巻12号。字幕を先に出すほうが理解が上がる
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej/65/12/65_12_1750/
  4. Xingyu Bruce Liu ほか(2023)"Modeling and Improving Text Stability in Live Captions"/ CHI 2023 Extended Abstracts(Google)。認識中の文字の書き換わりが、読み手の疲れと結びつく
    https://research.google/blog/modeling-and-improving-text-stability-in-live-captions/
  5. Sushant Kafle, Matt Huenerfauth (2017) "Evaluating the Usability of Automatically Generated Captions for People who are Deaf or Hard of Hearing"/ ASSETS 2017。大事な言葉の誤りが効いて、助詞の誤りはあまり効かない
    https://arxiv.org/pdf/1712.02033

教室・講義で実際に使った記録

話し方のコツと、人が直す工程を残した理由です。

  1. 皆川雅章(2016)「ICTを用いた情報保障の取組み—学生・教職員協働による実践事例—」コンピュータ&エデュケーション Vol.40, pp.26-31。話し方の工夫で認識率が4〜6割から約8割へ
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/konpyutariyoukyouiku/40/0/40_26/_pdf
  2. 若月大輔「ろう・難聴者支援のためのWebベース文字通訳システム captiOnline」筑波技術大学 注目の研究 vol.8。音声認識だけでは足りず、人が直す工程が要る
    http://www.tsukuba-tech.ac.jp/research/notable/vol8202541.html
  3. Yahoo!ニュース ニュースHACK(2018)「認識率98%——字幕で伝えるニュース、NHKの音声認識技術の今」取材先:佐藤庄衛(NHK放送技術研究所)。認識率98%でも人の確認と修正は外していない
    https://news.yahoo.co.jp/newshack/media_watch/caption_nhk.html

リンクはすべて2026年8月30日に開いて確認しました。
参考にした論文・記事の内容をこの記事に引き写してはいません。字幕の見せ方を決めるための材料として読みました。

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