「安心・安全なまち」って、だれにとって?
小4 総合的な学習の時間で、福祉と防災をからめた15時間のPBL「安心・安全なまちづくり」を考えます。これは"正解の単元計画"ではありません。現役教員として実際に組んでいる実践と、全国の先行事例から、授業づくりのヒントを並べました。
ここに並べた考え方は、私(現役の小学校教員)が実際に組んでいる15時間の単元をもとに、全国の総合的な学習の実践・自治体の福祉/防災教育・文部科学省の資料から学んで書いたものです。参考にした資料には、本文中と末尾に必ず出典と元サイトへのリンクを付けました。指導案の文章をそのまま写すことはしていません。児童の名前・写真・学校の内部情報は含みません。敬意を込めて、リンクから原典にあたっていただけたら嬉しいです。
「安心・安全なまちって、どんなまち?」——4年生に聞くと、多くの子が「事故がない」「事件がない」「明るい」と答えます。元気な自分から見た、素朴な定義です。この単元の面白さは、その定義が調べるほどにゆさぶられ、広がっていくところにあります。「安心は、人によってちがうんだ」と、子ども自身が気づいていく。福祉も防災も、教師が最初に配る"答え"ではなく、探究の中で子どもが発見していく中身です。
この記事は、現役教員として実際に回している15時間のPBL(課題解決型の学習)と、全国の先行事例をもとに、「問いの生み方」と「探究を続ける手立て」を並べたものです。どれが正解、という話ではありません。「こう考えたら、この単元はもっと面白くなるかも」というヒントとして、気になったところをつまんでもらえたらと思います。
01この単元の勘どころ
いちばんの落とし穴は、第1時にユニバーサルデザイン(UD)や「だれのため」を先に教えてしまうことです。そうすると「活動あって学びなし」——概念を渡されて、それを確かめる作業になってしまいます。UD・バリアフリー・防災・福祉は、子どもが調べ、当事者に出会う中で発見していく中身にしておく。だから第1時のゴールは「UDと出会わせること」ではなく、「ほんとうに安心・安全なまちって何だろう?」という問いを、子どもの中に生むことです。
福祉は「かわいそうな人を助ける勉強」ではありません。ある日突然、家族や自分が当事者になりうる、全員の問題です。災害も「いつか・だれか」ではなく「明日・自分」。この2つが交わるところ——たとえば災害のとき、避難所は車いすの人やお年寄りにとって安心か——に、福祉×防災の総合の核があります。
02「問い」を生む導入くらべ
導入のねらいは1つ。子どもの「安心・安全=事故がない」という定義を、"ずれ"でゆさぶることです。先行事例と実践を4つのタイプに分けて並べました。◎は個人的に「これは効く」と感じたものです。
タイプ1|一つの「他者の目」でゆさぶる
| おすすめ | 導入ネタ | 面白さのツボ | 出典 |
|---|---|---|---|
| ◎ | 同じ道・ちがう一日 | 子どもが「安全」と言った通学路の写真に、一つの他者の一日を差し込む。「目の不自由な人には?」「車いすのおばあちゃんには?」「大雨の日は?」。UDという言葉は出さず、場面で「あれ?」だけを作る。ここから問いが生まれる。 | 実践+東京都研修センター |
| ○ | 災害の日に置きかえる | 「地震・大雨が来たら、この人たちはどうやって逃げる? 避難所で困らない?」福祉と防災を最初からつなぐ問い。 | 内閣府 防災教育資料ほか |
タイプ2|まちの「実物・体験」から気づかせる
| おすすめ | 導入ネタ | 面白さのツボ | 出典 |
|---|---|---|---|
| ◎ | 身のまわりのUD探し | シャンプーボトルのきざみ、牛乳パックの切り欠き、ピクトグラム、多目的トイレ。「これ、だれのため?」。子どもが集めた発見に名前をつける(第2時)。探すと身のまわりにあふれていることに驚く。 | さいたま市UD授業づくりガイド |
| ○ | まちたんけん(安心/心配マップ) | 校区を歩き、安心の工夫・困りそうな場所・防災設備を写真とメモで記録→白地図にマッピング。「言えること」と「まだ分からないこと」に分ける。 | 広島県 第4学年 総合 指導案ほか |
タイプ3|当事者・専門家に「出会う」
| おすすめ | 導入ネタ | 面白さのツボ | 出典 |
|---|---|---|---|
| ◎ | 当事者の一日を聞く | 社会福祉協議会、車いす・視覚障害の当事者、市の防災担当などに来てもらう。ここで「安心は人によってちがう」が子どもの中から立ち上がる。ゲストは「情報をくれる人」であり「本気の提案を受け取ってくれる相手」。 | 実践+文科省×学校安全 実践事例集 |
| ○ | 避難所を福祉の目で見る | 避難所(多くは学校)は、段差・トイレ・情報の伝え方で、困る人が出る。「みんなが安心して過ごせる避難所か?」を問う。 | 内閣府/文科省 避難所バリアフリー事例集 |
03探究を続ける手立て
問いが生まれても、1時間で終わっては探究になりません。問いを持ったまま、時間をかけてまちを見せる手立てを集めました。
- 夏休みの「4つの目」調査。生まれた問いを持って、夏休みにまちを見る宿題。「目の不自由な人の目」「車いすの人の目」「小さい子の目」「大雨の日の目」など、いくつかの目でまちを見て、安心の工夫・心配な所を記録する。(下のワークシート)
- 発見を持ち寄り、子どもが分類する。教師が最初から「UD・防災・人」の4分類を配らない。子どもが集めた写真を似たもの同士に集め、その仲間に子どもが名前をつける。分類から概念が立ち上がる。
- まちたんけん+マッピング。校区を歩いて記録し、白地図に安心マーク・心配マークを貼る。件数を棒グラフに(算数「データの活用」と接続)。
- 当事者に聞く前に、国語で質問をつくる。「調べて分からなかったこと」を質問の軸にする。相手・目的を意識したインタビューの練習になる。
04「わかった」を「動きたい」につなぐ仕掛け
総合の後半は、「調べて終わり」にしないための設計が勝負です。PBLの考え方(Buck Institute for Education のゴールド・スタンダード)が助けになります。
- 真正性。実在の校区・市を対象に、実在の大人へ提案する。「本気で受け取ってくれる相手」がいると、子どもの言葉が変わる。
- 児童の声と選択。取り組む困りごとを、子どもが選ぶ。選ぶ基準は「切実さ・調べた根拠・自分たちに手が届くか」。
- 批評と改訂。提案を一度出して終わりにせず、相互レビューやゲストの助言を受けて練り直す。「その提案の根拠は?」を必ず問う。
- 「かわいそう」で着地させない。当事者の声と調査の事実を根拠に、まちをつくる一員として提案するところまで行く。
「福祉って大事だね」で終わらせない。調べた事実と当事者の声を根拠に、実際のまちへ提案する。この単元の設計思想より
05他教科・生活とつなぐ
- 社会「自然災害からくらしを守る」と直結。市の防災マップ・過去の災害(例:河川の合流部に市街地があるまちの水害)を、総合の防災の学びと重ねる。
- 国語:相手・目的を意識したインタビュー、根拠を挙げた提案(書くこと・話すこと)。
- 算数:調査結果の分類・整理・棒グラフ(データの活用)。
- 道徳:相互理解・公共の精神。図画工作:伝えたいことに合った形・色でポスターや提案物を。
- 防災×福祉の交点:避難所のバリアフリー、災害時に困りやすい人(高齢・障害・乳幼児・日本語がまだの人)への配慮。ここが単元の背骨。
06「こう考えたら面白いかも」15時間の流れ
実際に回している15時間を、他の先生が真似できる形に一般化しました。これが正解ではありません。7月に問いを生み、夏休みに問いを持ってまちを見て、9月に調べて当事者に出会い、10月にできることを提案する。「わかった」が「動きたい」に地続きになる流れです。
課題の設定
情報の収集
整理/設定
収集/分析
情報の収集
設定/表現
まとめ・表現
敬意を込めて。指導案・資料の本文は転載せず、要約と自分の言葉でまとめました。くわしくは各リンクから原典にあたってください。
(各サイトの内容・リンクは執筆時点のものです。リンク切れの際はご容赦ください。)
国の資料(総合的な学習の時間・防災・福祉)
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総合的な学習の時間編」|PDF ↗
- 文部科学省「総合的な学習(探究)の時間」ポータル|ページ ↗
- 教職員支援機構(NITS)「探究的な学習の過程の方法論(『今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開』小学校編)」|PDF ↗
- 内閣府・文部科学省「避難所となる学校施設のバリアフリー化の取組事例集」|PDF ↗
- 内閣府(防災担当)「地域と学校がともに防災教育を進めるために」|PDF ↗
- 文部科学省×学校安全「都道府県・政令市教育委員会作成資料一覧(実践事例集等)」|ページ ↗
自治体・研究会の指導案/授業づくり資料
- さいたま市教育委員会「ユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業づくりガイドブック」|PDF ↗
- 東京都教職員研修センター 第3学年 総合的な学習の時間「みんなにやさしい町」|PDF ↗
- 広島県 小学校第4学年 総合的な学習の時間 学習指導案|PDF ↗
教材・授業アイデア
- 一般社団法人 防災教育普及協会「防災教育教材・防災ゲーム等の一覧」|ページ ↗
- JICA「総合的な学習(探究)の時間のアイデア集(多文化共生)」|PDF ↗
- NHK for School「総合的な学習の時間」|ページ ↗
設計の枠組み
- PBLWorks(Buck Institute for Education/BIE)ゴールド・スタンダードPBL(7要素)を、単元設計の下敷きにしています。|What is PBL? ↗
この記事は、現役の小学校教員が実際に組んでいる15時間の単元計画をもとに、School Stock が授業づくりのヒントとして再構成しました。図はすべて自作です。児童の名前・写真・発言、勤務校名などの内部情報は含んでいません。地域の防災の記述は公表されている事実の範囲です。