金属を熱すると、なぜ体積が増える?
小4理科「物の温度と体積(金属の膨張)」の授業を、全国の先行事例を歩きながら考えます。これは"正解の指導案"ではありません。「こう考えたら面白いかも」を集めた、授業づくりのヒント集です。
ここに並べた導入や手立ては、全国の先生・研究会・教育センター・大学附属校・研究者の方々が積み上げてこられた実践から学んだものです。参考にした実践には、本文中と末尾に必ず出典と元サイトへのリンクを付けました。指導案の文章をそのまま写すことはしていません(要約と、私自身の言葉で書いています)。敬意を込めて、リンクから原典にあたっていただけたら嬉しいです。
4年生の「物の温度と体積」。空気・水ときて、最後にやってくるのが金属です。ところが金属の膨張は、目で見てもほとんど分かりません。「固くて丈夫な金属が、温めたくらいで大きくなるわけがない」——子どもの多くは、そう思っています。だからこそ、その予想をどうひっくり返すか。ここがこの時間のいちばん面白いところです。
この記事は、全国の理科研究会・教育センター・大学附属校の指導案や、研究論文、実践記録、動画などを40件あまり集めて、「面白い導入」と「金属の見えない変化を見せる手立て」を並べたものです。どれが正解、という話ではありません。「こう考えたら、この授業はもっと面白くなるかも」というヒントとして、気になったものをつまみ食いしてもらえたらと思います。
01この単元の勘どころ
ふつうは 空気 → 水 → 金属 の順で進めます。変化が大きくて見やすいものから入る、という並びです。空気は栓が飛んだり石けん膜がふくらんだり、水はガラス管の中の水面が上がったり。ところが金属は、球膨張実験器で「輪を通らなくなる」ことは分かっても、膨張そのものはほとんど目に見えません。
福岡教育大学大学院の甲斐昌平さんは、教科書5社(学校図書・教育出版・啓林館・大日本図書・東京書籍)の実験を一覧にして、金属はどの教科書も「金属球実験器」で共通していること、そして「空気>水>金属の順で変化が大きい」ことを3つを並べて比べる実験は教科書に載っていないことを指摘しています。ここを自作教材で埋める、という発想が生まれます。
02面白い導入くらべ
導入のねらいは2つ。「自分ごとの問い」を持たせることと、「予想が割れる/裏切られる」状態をつくることです。先行事例を4つのタイプに分けて並べました。◎は個人的に「これは面白い」と感じたものです。
タイプ1|身近な「なぜ?」から入る
| おすすめ | 導入ネタ | 面白さのツボ | 出典 |
|---|---|---|---|
| ◎ | 線路のつなぎ目 | 電車の「ガタンゴトン」の音で入る→音は線路のつなぎ目のすき間で鳴っている→乗り心地が悪いのに、なぜわざわざすき間をあける?→夏はどうなる? 導入とゴール(生活との関連)が一直線でつながる。 | 大阪府教育センター |
| ◎ | 金属のふたが開かない | ジャムやジュースの瓶の金属ふたが固い→お湯につけたり温めたりすると開く→なぜ? 家でやったことのある子が多く、体験と直結する。 | みんなの教育技術ほか |
| ○ | 電線のたるみ | 夏の電線はたるみ、冬はピンと張る。金属(銅・アルミ)が温度で伸び縮みする実感に。 | 各実践 |
| ○ | 猛暑でレールが曲がる | 暑さでレールが波打つ・橋が盛り上がる写真。「すき間がなかったら?」を逆から考える。 | 瑞穂南小 実践ほか |
タイプ2|予想を裏切る「驚き」から入る
| おすすめ | 導入ネタ | 面白さのツボ | 出典 |
|---|---|---|---|
| ◎ | 金属球+輪(湯→炎の2段) | 「固い金属は変わらないはず」と予想→まず湯で温める(変化がほぼなく、予想どおりに見える)→次に炎で熱する(輪を通らない!)。湯では変わらず、炎で変わるという落差が、驚きを最大にする。 | 瑞穂南小 実践 |
| ○ | へこんだピンポン玉をお湯で戻す | へこんだ球がお湯で元に戻る。空気の話だが、単元全体の入り口として強い。 | みんなの教育技術ほか |
| ○ | ペットボトルの栓が飛ぶ/へこむ | 「手で押していないのに、なぜ?」。既習の"とじこめた空気"との違いに気づかせる。 | みんなの教育技術 |
タイプ3|単元を貫く「大きな問い」で入る
| おすすめ | 導入ネタ | 面白さのツボ | 出典 |
|---|---|---|---|
| ◎ | 「一番よく変わるのはどれ?」 | 空気・水・金属を同じ体積でそろえて見せ、「温めたとき一番変わるのは? 一番変わらないのは?」と予想させる。クラスの予想がきれいに割れる(甲斐さんの実践では25人が6通りに分かれた)。「じゃあ全部温めて比べよう」と、実験の必要感が子どもから出る。 | 甲斐昌平 論文 |
| ○ | あえて予想と結果を「ずれ」させる | 素朴な考えを一度出させ、結果とのずれから問いを立てる。深い学びの起点づくり。 | 埼玉県 事例集 |
タイプ4|ICT・思考ツールで入る
- キャンディチャート(もし〜ならこうなる)で、予想→実験→結果→わかったことを毎回同じ型で整理。空気・水・金属の3実験を同じ型で回せる。(ロイロノート 高浜市立港小 林祐有香さんの授業案)
- 事前学習の動画+端末配信で導入を家庭学習にし、授業は実験と対話に集中させる。(ロイロノート 四国中央市立中之庄小 近久元太郎さんの授業案)
03金属の「見えない膨張」を見せる手立て
この時間の悩みは、ほぼこれに尽きます。先行事例の工夫を集めました。
- 球膨張実験器(定番)。熱する前は通る玉が、熱すると通らなくなる。冷やすとまた通る(可逆性まで見せるのがコツ)。大阪府案では「通るA輪/通らないB輪」を用意して、結果を場合分けで予想させています。
- 銅棒+レンガの自作膨張器。銅棒(φ2・30cm)2本をレンガに固定し、先端を2mmだけ離して向かい合わせる。下から温めると伸びて先端が当たる。これがそのまま「線路のつなぎ目のミニチュア」になり、導入と実験が直結します。材料はホームセンターで数百円。(甲斐さんの開発教材)
- 同体積そろえ比較装置。ガラス管に色水・寒天で水と空気を、銅棒とあわせて同じ長さで並べ、温めると「空気>水>金属」の伸びの差が棒グラフのように見える。(甲斐さんの開発教材)
- 拡大・可視化の小道具。空気は石けん膜や細管の中の液で拡大。水は示温インクや約60℃で白くにごる示温柔軟剤で変化を見せる。(佐伯英人・木村ひろみ 2018)
- サーモグラフィ動画で熱の広がりを見せる導入補助も。
湯では変わらない。炎で、通らなくなる。この落差が、いちばんの先生になる。瑞穂南小学校の実践より(2段階加熱の工夫)
04問題解決・深い学びの仕掛け
- 結果の予想を必ず書かせる。実験前に「どうなると思うか+その理由」をノートに→ペアやグループで実験方法の妥当性を検討する。(大阪府案)
- 逆に考えさせる活用問題。「通らないB輪に、どうやって玉を通す?」→玉を冷やす派と輪を温める派に分かれて検証。学んだ性質を使う場面になる。(大阪府案)
- あえて理由を問い直す。結果に対して「なぜ?」を追究し、事象と原理を結ぶ。(埼玉県の深い学びの事例)
- 見通しをもたせる。やる前に結果の見通しを言葉にすると、考察が深まる。(みんなの教育技術「理科の壺」)
05生活とつなぐネタ
- 線路・鉄橋のつなぎ目のすき間/夏にすき間が詰まると危ない
- 電線が夏にたるみ、冬に張る
- 金属ふたの開け方(温める)
- 鉄道のレール、エッフェル塔が夏に伸びる
- 発展:バイメタル(伸びの違う2つの金属を貼る)→ 温度計・こたつ・アイロンのサーモスタット
06「こう考えたら面白いかも」1時間プラン例
ここまでのヒントを、金属の1時間(本時)に組んでみました。これが正解ではありません。「線路のつなぎ目」で入り、「湯→炎」で驚かせ、「B輪に通すには?」で使う。導入・実験・活用が一本でつながる流れです。
10分
7分
15分
8分
5分
敬意を込めて。指導案の本文は転載せず、要約と自分の言葉でまとめました。くわしくは各リンクから原典にあたってください。
(各サイトの内容・リンクは執筆時点のものです。リンク切れの際はご容赦ください。)
指導案・授業展開例(教育センター・研究会・大学附属)
- 大阪府教育センター「金属の温度と体積〜線路のつなぎ目に隙間がある理由を探ろう」授業展開例|PDF ↗
- 埼玉県教育委員会「小学校理科 事例3 問題解決的な学習の充実(深い学び)」第4学年|PDF ↗
- 文部科学省「金属、水、空気と温度」評価事例|PDF ↗
- 川崎市理科教育研究会 指導案「ものの温度と体積」|PDF ↗
- 宮城県総合教育センター 第4学年略案「物の体積と温度」|PDF ↗
- 山口大学教育学部附属 藤井大介「追究!ものの体積と温度」|PDF ↗
- 佐賀県教育センター 指導案A案・B案|PDF ↗
- 福岡市教育センター 指導案「ものの温度と体積」|PDF ↗
- 静岡県総合教育センター「金属の温まり方」資料|PDF ↗
- 神奈川県 教材「金属、水、空気と温度」|PDF ↗
研究・教材開発(論文)
- 甲斐昌平(福岡教育大学大学院)「小学校理科における金属,水,空気の熱膨張に関する教材開発 〜同体積による体積変化の可視化」科教研報 Vol.27 No.1|J-STAGE ↗
- 佐伯英人・木村ひろみ(2018)「洗濯用合成洗剤を使って水の温まり方を調べる実験」理科教育学研究 58(3)
- 藤崎聡美(2009)「『金属の体積変化は水よりも小さい』を確かめる教材」科教研報 Vol.24 No.1
実践記録・学校ブログ
- 川崎市立宮内小学校「金属の温度と体積〜金属球を熱してみると」|ページ ↗
- 瑞穂 南小学校「すごいぞ!! 実験『金属の球はわっかを通るか?』」|ページ ↗
- 京都市立小野小学校 学校日記「4年理科 ものの温度と体積」|ページ ↗
- 新潟市立小林小学校 ブログ「4年理科 ものの体積と温度」|ページ ↗
- 京都聖母学院小学校「ものの温まり方と体積」|ページ ↗
授業案・指導アイデア・動画
この記事の教材研究メモ(先行事例40件超の一覧)をもとに、School Stock が要約・再構成しました。図はすべて自作です。教科書の本文・図版、児童の情報は含んでいません。